笑顔で限界に挑むウルトラランナー、コートニー・ドウォルターが6年ぶりの日本で話したこと

2024年4月、サロモンアスリートのコートニー・ドウォルターが富士山麓で開催された100マイルのトレイルランニング・レース「マウントフジ100」に参加するため来日しました。昨年はウェスタン・ステイツ、ハードロック100、そしてUTMBという世界中のトレイルランニングファンが注目する夏の三つの100マイルを相次いで制する偉業を成し遂げたコートニーは、世界最強のトレイルランナーだといっても過言ではありません。

今回のマウントフジ100では2018年に続いて二度目の優勝を果たした彼女に、レースの前後に話を聞きました。

「あの時、最後までプッシュしていたら」と富士山に再挑戦

コートニー・ドウォルターはアメリカ・ミネソタ州出身。学生時代から陸上競技やクロスカントリースキーの選手として活躍していました。コロラド州デンバーで教師をしていた2016年に初めての100マイルレースで優勝し、トレイルランニングでその才能を発揮するようになります。翌年にはサロモンのアスリートチームに加わって、24時間走の米国新記録や240マイルの超長距離トレイルレースで男女総合優勝を果たします。コートニーが2018年に富士山にやってきたのは、アメリカのウルトラランニング界でルーキーとして注目されていた時でした。

「2018年にこの大会を完走(注・23時間57分で優勝)して素晴らしい経験ができました。でも私にとっては本当にタフなレースでした。80マイル(約128km)地点で体力的にはレースは終わってしまっていて、あとは何とかフィニッシュまでサバイブすることしか考えられませんでした。」

「そういう苦しい思いをしたあとは『あの時、自分が最後までずっとプッシュし続けることができたらどんな結果が出せただろう』と、未知の可能性についていつも考えるんです。そして、もう一度あのレースに戻ってもう一度挑戦してみよう、過去の経験を生かしてもっといい結果を出してみたい、と思うんです。」

でも、過去のレースでの心残りだけが再び日本を訪ねた理由ではなかったようです。

「マウントフジは足はもちろん頭も使って走らなくてはいけない難しいレースです。夜の間ずっとハイペースで走り続けたと思ったら、今度は急な登りがやってきます。今年はうまくスケジュールに組み込むことができてよかった。」

「前回、ケビン(夫)は一緒に来ていません。彼にも富士山の素晴らしいトレイルや大会に集まる人たちとのふれあい、それに美味しい食べ物を経験してもらいたいと、ずっと考えていました。」

世界の名だたるトレイルランニング大会で勝利を重ねるようになってからも、日本はコートニーにとって再び自分の力を試し、文化に触れて、コミュニティと交流してみたい場所でした。

ライバル不在でも圧倒的な記録を残したコートニーが目標にしたこと

コートニー・ドウォルターは2018年に続いて今年のマウントフジ100で二度目の勝利を上げました。しかしその勝利は前回と比べると桁違いの内容です。スタート直後から女子のレースをリードし続けただけでなく、コースを進むにつれて前を走る男子選手を一人また一人と追い抜き続け、最後は男女を通じて3番目のフィニッシャーとなっていました。タイムは男子優勝選手に11分差まで迫る19時間21分。コースが多少異なるものの、前回の自身のタイムを4時間半も上回りました。

「100マイルのレースでは、必ず完走できるとは限りません。まずは、フィニッシュゲートまでたどり着けたのは幸運でした。その上で2018年に走った時と比べるなら、この6年間の経験を通じて100マイルを走る能力を向上させることができました。」
大会会場で話しかけられれば笑顔で応え、記念写真に応じる。レースを走っている間も、周りの選手やエイドのボランティアや応援の人たちの声に「アリガトウ」と日本語で返す。いつみても楽しそうに走る姿は2018年から変わりません。しかし、今回のフィニッシュの直後はしばらく誰とも話せず、暖かい夜にもかかわらず青ざ
めて寒さに震えていました。二度目の優勝は確実であっても、妥協することはなかったことがわかります。一体どんな思いで走っていたのでしょうか。

「全力を出し切ってこれ以上は何もできないという状態でフィニッシュする。どんなレースであってもそれが私の目標です。今回もその目標を実現できたと思います。」
「このコースは本当にタフで、登りと下りの繰り返しに加えて、それらをつなぐロードセクションも多いので、あらゆる筋肉が酷使されます。特に後半は登り下りがますます頻繁で急になり、そこをすっかり疲れた脚で臨むことになります。ゴールを考えずに目の前の一歩一歩に集中することを心がけました。」

過酷な場面こそ笑みがこぼれる

誰かと競争することよりも、自分がどこまでできるか試すことが大事。それは言うことは簡単ですが実践することは難しいことに違いありません。日々のトレーニングにコートニーの強さの秘密があるのではないか、との質問にはこう答えてくれました。
「私はコーチもいないし、トレーニングプランもありません。でも、自分の身体が週にどれだけのトレーニングをこなせるか、どのタイプのランニングが好きか、この数年間でわかってきました。毎日、自分の脳と脚の感覚をチェックして、そこから走る距離や強度を決めています。」自分自身と正直に向き合い、体調や感覚を尊重しながら適切なトレーニングを重ねていくのだといいます。強さの秘密を探ろうと質問を重ねるうちに、心と身体の関係について話してくれました。
「私はたとえ最も過酷な場面であっても、そこから喜びを感じることができると信じています。だから、最も辛い瞬間に微笑むことは私には自然なことです。」「100マイルのような長距離レースでは、肉体的な強さと同様に、精神面の強さが非常に重要になります。レース中は、ネガティブな考えにとらわれたり、ゴールまでの距離や脚の疲労を考えたりするのではなく、マントラ(心の支えとなる言葉)を唱えることで、脳を前向きで生産的な状態に保つようにしています。」単なる我慢ではなく、自らを厳しく律しながらも心と身体が発するサインを冷静に受け止めて判断する。レース中の困難な状況を積極的に受け止める。自分と向き合い対話する。こうした精神的な強さがコートニーを今日に導いたのでしょう。

成功を収めた今も、限界に挑戦し続ける

UTMBやウェスタン・ステイツだけでなく、世界の名だたる大会で成功を収めた今、コートニーは自分の目標を見失うことはないのでしょうか。そんな心配は無用なようです。
「人間が肉体的、精神的に何ができるのか興味があります。だからこそ、常に前に進み、新しいことにチャレンジし、不可能だと思えることを見つけ出すことができます。」コートニー・ドウォルターの本質は、明るい笑顔の裏側で自らの限界に挑み続ける強い精神力を持ち合わせていることにあります。そして記録や順位に囚われることなく、常に新しい挑戦を探っている。これからも彼女の歩みは、多くの人々に希望と勇気を与え、可能性への挑戦を後押ししてくれることでしょう。


コートニー・ドウォルターを支えるサロモンのトレイルランニング・アイテム

S/LAB GENESIS

S/LAB GENESIS は、コンペティションへのこだわりから解放されたシューズ。レース仕様の抜群のグリップと優れた保護力、快適さを備えていますが、自己最高記録よりも共有経験を積み重ね、数値ではなくアドベンチャーとして距離を語れるような、トレイルランニングの新しいアプローチを提案します。

S/LAB ULTRA 10

ウルトラランニングのための最高の性能基準をも上回るよう設計された S/LAB Ultra 10 は、身に着けていることを忘れてしまうほどの軽さと快適さが特長。François d’Haene にインスパイアされ、彼との共同開発により誕生したウルトラレース専用のこのベストは、Salomon 最軽量の製品。必需品や大容量ハイドレーションフラスクを収納できるアクセスしやすい収納ポケットを多数備えています。


Courtney・Dauwalter/コートニー・ドウォルター

プロフィール

競技 トレイルランニング

国籍 アメリカ

出身地 レッドビル

誕生日 1985年2月13日

サロモン契約 2017年より