大文司屋

富士山吉田口登山道の「馬返し(1合目下)」にはかつて4軒の茶屋が営業していたといいます。その一つが、江戸時代に創業し、昭和39年まで営業を続けた〈大文司屋〉。富士スバルラインの開通に伴い、麓からの登山客が激減したことを受けて惜しくも廃業しましたが、その後も明治大学山岳部のクラブハウス「名大山荘」として長く利用されてきました。明治大学山岳部といえば、植村直己ら多くの有名登山家を輩出してきた名門山岳部。かつて茶屋だった建物を拠点に、さまざまな登山家たちが冬の富士山に挑んだのです。2021年に〈大文司屋〉6代目の羽田徳永さんが、「馬返し」〜5合目間の唯一の茶屋として56年ぶりに大文司屋を復活させました。店内には大きな炉があり、寒い日には火を焚いて登山者を迎え入れています。ライフスタイルパートナーとして、吉田登山口の価値を多くのハイカー、利用者に発信しています。

【大文司屋】
所在地:山梨県富士吉田市上吉田
電話番号:090-8740-6848
営業時間:8:30〜16:00
定休日:無休(4月上旬〜11月上旬)


S/PLUS(サロモンメンバーシッププログラム)サービス内容

茶屋メニュー(コーヒー、紅茶、ソフトドリンク、あんみつなど)¥100引き

※ライフスタイルパートナーとは……サロモンとの親和性や価値を相互に向上し合い、サロモン メンバーシッププログラム「S/PLUS」のメンバーへ特別なサービスを提供する施設や店舗のこと。富士吉田市のライフスタイルパートナーにおいては、吉田口登山道の歴史と文化、価値をサロモンとともに捉え直して新たに発信していく仲間でもある。

信仰と文化の源泉を残し、受け継いでいく
〈大文司屋〉6代目・羽田徳永さん

富士山吉田口登山道1合目直下の「馬返し」といえば、かつては禊所が置かれた神聖な場所。富士講信者はここで禊を行って身を清め、登拝の道を進んだといいます。その「馬返し」でおよそ200年に渡ってお茶や軽食を提供してきた〈大文司屋〉。2020年、半世紀ぶりにここを再開した羽田徳永さんは〈大文司屋〉の6代目。昭和39年(1964年)に茶屋を閉めた5代目は羽田さんの実父にあたります。

長く東京近郊で暮らした羽田さんが生まれ故郷の富士吉田市に戻ったのは、勤め先を早期退職した2019年のこと。父が最初の東京オリンピックの年に閉めた〈大文司屋〉を、息子の自分が2回目の東京オリンピックの年に再開する――そんなストーリーを思い描いていたといいます。「開業準備を整え、2020年のゴールデンウィーク前にいざ店を開けよう!と思ったら、パンデミックにより登山道閉鎖が決定。なかなかうまくいきません」と笑う羽田さん。ようやくオープンできたのは、同年の9月中旬のこと。初年度はわずか2ヶ月の営業となってしまいました。

登山道に位置する茶屋ではありますが、利用するのは登山者ばかりではありません。最近多いのはトレイルランナーたち。とくに、毎年7月に実施される「富士登山競走」のコースになっていることもあり、練習でここを走るランナーが増えているとか。そのほかにもバードウォッチャーや植物の愛好家、外国人ハイカーがここで行き合い、羽田さんが想像さえしなかった出会いや交流が生まれているといいます。

w「富士山が世界文化遺産に登録されたのは、ここが信仰と文化の源泉だから。信仰に注目して吉田口を歩く人が増えたのは自然な成り行きだと感じています。とくに外国人は、日本人よりも富士山がもつ歴史や文化のエピソードに魅力を感じてくれているみたい。昨年は45カ国もの人がここを訪れてくれました。吉田口登山道にはポテンシャルしかない、そう感じています」

魅力あふれる登山道ですが、ここを歩くハイカーの数は、5合目から山頂を目指す登山者のわずか10分の1程度。頂上を踏むだけなら5合目からでも十分だけれど、登頂は富士山のほんの一面でしかありません。信仰でも歴史でもトレイルランニングでも、入り口はなんでもいい。たくさんの人に富士みちに興味を持ってもらい、ここを歩いてほしいというのが羽田さんの願いです。

「ある外国人ユーチューバーに言われたんですよ、『日本人は富士山のことを知らなすぎる』って。登山道沿いに建っている石灯籠はなんなのか、どうして猿をモチーフにした石像が建っているのか、その謂れを知っている人は多くないんですよ。歴史や信仰を前面に打ち出すのは野暮だし、別に知らなくてもいい情報だけれど、知っているともっと楽しく歩けるよね」

店舗の外のスペースにテーブルや椅子をしつらえてあり、一休みしたくなる雰囲気を醸し出している〈大文司屋〉。コーヒーやお茶、あんみつなどをいただけるほか、オリジナルの手ぬぐいなどお土産の用意もあり、吉田口登山道の散策前後の立ち寄りにぴったりです。
「倒木や積雪といった路面コンディションはもちろん、富士みちにまつわるさまざまな情報や歴史、文化のエピソードをハイカーのみなさんにお伝えしていきますので、ふらっと立ち寄って情報収集していただければと思います」

そうやって吉田口登山道を盛り上げることが、「馬返し」で唯一残った茶屋、〈大文司屋〉の使命なのだと羽田さんは考えています。