
標高3776m、日本の最高峰・富士山。誰もが一度は「登りたい」と夢見る存在ですが、その頂を踏むまでには多くのリスクが潜んでいます。例年、登山シーズンには数万人が山頂を目指す一方で、八合目の救護所には体調不良や事故に見舞われた登山者が後を経たないというのもまた事実です。


富士山八合目富士吉田救護所で20年近くボランティアを続ける岩瀬史明医師は語ります。
「富士登山をしようと思うくらいですから、元来健康な人が多い。ただ、日常とは違う標高の高い場所だということを忘れてはいけません。事前の体調管理としっかりとした装備を持って行くこと。これらの点を守ってもらえれば、富士登山中の体調不良の多くは予防できると思います」
今年から、富士吉田市と包括連携協定を結び、救護所スタッフのウェアの一部をサポートするサロモン。ここではそのアイテムを取り入れながら、実際の救護事例を交えて、富士山登頂を安全に楽しむための装備リストを紹介します。

医師が推奨する富士山登頂装備リスト

① ウェア——「低体温症の搬送者は薄着の人が多い」
富士山は真夏でも山頂は5℃以下。日中は汗ばむほどでも、夜間や風に晒されると一気に体温を奪われます。とくに御来光待ちの時は真冬なみのウェアで。
推奨装備:
・ベースレイヤー メリノや化繊などの素材で汗を吸湿・速乾
・ミドラー フリースなど保温と通気を備える中間着
・インサレーション 保温性に優れたダウンや化繊などの中綿アイテム
・レインウェア上下 サロモンの防水シェルはスタッフも採用
・替えのソックス・インナー 雨や汗の濡れによる低体温症予防に
実例:ある30代男性はシャツ一枚にウィンドブレーカーだけで夜間の登頂を試みました。八合目に到着するころには震えが止まらず、低体温症の初期症状が出て救護所に搬送。着替えもなく、全身が汗で冷え切っていたのが原因でした。

② アクセサリー——「紫外線障害は軽視されがち」
富士山は五合目から森林限界を超えており、遮蔽物も少ないので直射日光と強風に体を晒すことになります。
推奨装備:
・ビーニー・ネックゲイター 末端冷え対策
・グローブ 薄手の防風・耐水性を備えるものが理想
・サングラス UVカット推奨
・帽子 熱中症予防にも
・ヘルメット 落石や転倒事故への備え
・ゲイター 靴への砂利などの侵入を防ぐ
実例:救護所には毎年、サングラス不携帯で「雪盲」に近い状態に陥る登山者が運び込まれます。目の痛みと視界不良で歩けず、結果的に他人への迷惑にも発展することがあります。

③ 装備・ギア——「スニーカー登山は厳禁」
八合目手前からは岩場のガレた道が続き、下山時の転倒事故が後を絶ちません。
推奨装備:
・ザック 30L以上程度
・レインカバー 必ずザックのサイズに合ったもの
・トレッキングポール 膝関節の負担軽減や転倒防止
・登山靴 ミドルカット以上で履き慣れたものが推奨
実例:20代女性の登山者はスニーカーで挑戦。下山途中に足をひねり、歩行困難となり救護所に収容。最終的にヘリ搬送を余儀なくされました。靴底は摩耗してグリップが効かず、初歩的なギア不足が重大事故に繋がったケースです。

④ ライト・電源・通信——「電池切れが道迷いを招く」
ご来光目的で夜間行動する登山者が多い富士山では、ライトと通信手段は命綱です。
推奨装備:
・ヘッドライト 予備電池も必携
・モバイルバッテリー 満充電したもの。ソーラー充電式も有効
・携帯電話 必ず携行し充電残量を確保
実例:40代男性はスマホのライトで登山を続けていましたが、途中で電池切れ。真っ暗な登山道で動けなくなり、同行者と救護所に駆け込むことになりました。

⑤ 水分・行動食——「脱水は高山病の引き金」
標高が上がると呼吸が浅くなり、知らず知らずのうちに体内の水分は失われます。小まめな水分補給が重要です。
推奨装備:
・ソフトフラスコ 必ず1L以上。ソフトタイプが携行に便利
・保温ボトル 暖かい飲み物を携行しておくと低体温症にも効果的
・行動食(ジェルや塩飴) カロリーはもちろん、経口補水液などミネラル補給ができるものも準備する
実例:50代男性が頭痛と吐き気を訴えて救護所に到着。診断は典型的な高山病でしたが、調べると水筒にはほとんど手をつけていませんでした。「トイレに行きたくなりたくない」という理由で水分を控える人は多く、救護所では頻発するケースといいます。

⑥ 安全・医療関連——「小さな備えが大きな差」
推奨装備:
・ファーストエイド 靴擦れ用テーピング、鎮痛薬など
・エマージェンシーシート 天候急変で二次遭難を防ぐ
・携帯トイレ 渋滞時などいざという時の備えに
・医薬品
実例:頭痛や関節痛を軽視して薬を持たずに登る人もいます。軽度の不調を自己対応できれば下山可能ですが、薬なしでは救護搬送に至ることもしばしばです。

⑦ その他必携品——「身元確認は生命線」
推奨装備:
・手拭い・タオル
・日焼け止め
・地図
・貴重品 緊急連絡先を記したメモや山岳保健、健康保険、現金など
実例:財布や身分証を持たないまま搬送される登山者も珍しくないそう。山小屋などで補給する際に必要になるので、現金を多めにもってくることも重要。
「登りきる」より「無事に下山する」ために
これまでの救護所の統計によれば、重症事例の半数以上は「頂上目前」で発生しています。頂に近づいた高揚感と疲労が重なり、冷静な判断を欠くのです。
岩瀬医師はこう結びます。
「しっかりとギアを準備していたとしても、とにかく無理をしないこと。自分の体調と常に向き合って、違和感を感じたら近くの山小屋などに声を掛けてください。八合目救護所まで来なくても、僕らが現場に出向くこともできますから」
サロモンをはじめ最新のアウトドアギアは、そうした安全登山を支える強い味方です。挑戦するすべての登山者へ。装備を整え、心を整え、「無事下山」を最優先に富士山と向き合っていただきたいと思います。