ランニングシューズって、何キロくらいもつもの?

Two paths: one paved with walkers, the other rocky near a stream.

お気に入りの一足に出会ってしまったら、もう手放せない。
でも、そのシューズと“永遠の愛を誓う”というのは叶わないのです。シューズとの関係に「死がふたりを分かつまで」なんて気持ちでいると、膝や腰、自己ベストから離婚届を突きつけられるかもしれません!

じゃあ、そのシューズがもう“全盛期”を過ぎたかどうかをどう見極めるか。
走行距離を記録するのは一つの方法ですが、それだけで判断することはできません。地面の種類やシューズの素材、走り方、体の特徴…いろんな要素がシューズの寿命に影響します。

そこで今回は、サロモンのランニングシューズの開発チームから、耐久性のプロフェッショナルであるマイリス・ドレヴォンとアルノー・ドゥルトラに話を聞いてきました。彼らが語る、“シューズとのちょうどいい付き合い方”をお伝えします。

ランニングシューズって、何キロくらいもつもの?

コンディションがすべて理想的で均一であるならば、一般的なランニングシューズの寿命はおよそ500〜800kmが目安になります。
でも実際には、ランナーの体格や走り方は千差万別。アスファルト、山道、ぬかるみ、雪道など、走る場所や天気もさまざまです。

こうした条件が少しずつ影響して、あなたのシューズがどれくらいの距離を一緒に走ってくれるかが決まってきます。

シューズの替えどきのサインを見逃さないで。

シューズの寿命を見極めるには走行距離だけじゃなく、シューズの見た目も大事な要素になります。
アッパーにほつれや破れが出てきたら、それは明らかなサイン。でも注意したいのが、ロード、トラック、ジムのランニングマシンなど、均一でやさしい路面ばかりを走っている場合。こういった条件だと、見た目はキレイなままでも、シューズの“中身”はもう寿命を迎えていることがあります。

今のランニングシューズは、アッパーの耐久性が格段にアップしているので、見た目に惑わされず「履き心地の変化」にも敏感になることが大切です。
走っている最中の感覚が「なんとなく前より重い」「衝撃が気になる」…そんな違和感があったら要注意。こういう変化は少しずつ起こるので、気づかないうちに“限界”を超えてしまっていることも。お気に入りの一足に執着していると、余計に見逃しがちです。

次にチェックすべきは、ミッドソール。
ここにシワや凹みが見えはじめたら、それはフォームがへたってきた証拠。クッション性や反発力が落ちているサインなので、走っている最中の感覚が変化していないか再確認しましょう。

そして、アウトソールの削れも重要なサイン。
特にトレイルランニングシューズでは、ラグがすり減ってきたら要注意。グリップ力が落ちると、踏ん張りがきかなくなって、走行中に足を取られたり、無意識にフォームを崩してしまう原因になります。その状態で使い続けると、ケガにつながるリスクも。足元の不安は、確実に全身のバランスに影響してきます。

距離を記録してシューズの寿命をトラッキング。

愛用のランニングシューズをベストなタイミングで手放すために、走行距離の管理はとても大切。
引き際を見誤ると、気づかないうちにフォームが崩れたり、ケガにつながることもあるので注意が必要です。

今はシューズごとの走行距離を記録できるランニングアプリやスマートウォッチが世の中にはあふれています。
シューズに内蔵されたチップがスマートフォンと連携して、距離を自動で記録してくれるモデルも。もちろん、スマートフォンやパソコンのスプレッドシートに距離をメモしていくだけでも十分ですし、もっとアナログな方法が好みなのであれば、紙のノートに手書きで記録してみましょう。

どんな方法を選ぶにせよ、正確に管理するなら、以下のような項目をおさえてください。

・シューズのモデル名

・購入日

・走った路面(アスファルト?トレイル?)

・天候や気温

・ペースやその日の調子

こうした情報を残しておくことで、シューズの摩耗パターンにも気づきやすくなります。

高い耐久性のシューズの特徴とは?

新しいランニングシューズを設計するとき、デザイナーたちは「軽さ」「耐久性」「価格」のバランスという難題に常に直面します。
この3つすべてを完璧に満たすシューズを作るのはとても大変です。
たとえば、レース向けのスピードモデルは軽さを優先して、耐久性を犠牲にすることが多く、一方で、トレーニングや長距離ラン向けのモデルは、耐久性を重視する分素材の軽さが焦点にならないことが多いんです。

そして、ロード用とトレイル用では作りそのものがまったく違うというのもポイント。
トレイルランニングシューズは、ラグのあるアウトソールだけじゃなく、足全体を保護する補強がしっかり入っていて、岩場やテクニカルな地形に対応する設計になっています。

そんな背景をふまえたうえで、耐久性の高いシューズを選ぶなら、下記のポイントに着目してみてください。

・高摩耗ラバーを使用した頑丈なアウトソール

・トゥキャップ(つま先保護):トレイルでは岩や木の根から足を守る必需品

・EVAやTPU素材のミッドソール:へたりにくく、長持ちするクッション性

・ヒールカップ:足のブレを抑えて、片減りやフォーム崩れを防止

・摩耗しやすい部分へのオーバーレイ補強:特にトレイルでは重要

・縫い目のないウェルディング構造:弱点になりがちな継ぎ目を排除

・ロックプレート:鋭い岩や突起から足裏を保護

・高衝撃部位へのカーボンラバー使用:耐久性をさらにプラス

どこを走るかで、シューズの寿命は変わります。

走る路面が、シューズの耐久性には大きく影響します。
たとえば、アスファルトやコンクリートは摩耗性が高く、アウトソールの消耗が加速します。

逆に、芝生や砂地は比較的ソフトな印象がありますが、実は砂がシューズ内部に入り込むことで内側から素材を傷めてしまうことも。
泥や水たまりの多い路面では、汚れが染み込みやすく、適切に洗って乾かさないと、素材劣化の原因になります。

「トレイル」とひとことで言っても、すべてがやさしいわけではありません。
たとえば森林の柔らかい道やシングルトラックは足にもシューズにも優しいですが、
アルプスのようなテクニカルな岩場では、鋭い岩がシューズを容赦なく試してきます。裂けやパンクのリスクもあるので、装備の選択は慎重に。

そして最も摩耗が少ないのはトレッドミル(ランニングマシン)。アウトソールの摩耗は抑えられますが、長く走っていればミッドソールのクッションにダメージは着実に蓄積していきます。

走り方ひとつで、シューズの減り方は変わります。

ランニングスタイルやフォームは、シューズの摩耗パターンに大きく関わる要素のひとつです。
たとえば、かかとから着地するヒールストライクは、アウトソールのかかと部分が早くすり減る傾向があります。一方で、フォアフットで走る人は、前足部に負荷が集中しやすくなります。

さらに、オーバープロネーション(着地時に足が内側に倒れすぎる動き)のランナーは、シューズの内側(内くるぶし側)の摩耗を早める原因に。
逆に、スピネーション(足が外側に傾く動き)の傾向があるランナーは、シューズ外側の摩耗が進みやすくなります。

また、衝撃の強い着地をするタイプのランナーは、フットストライクの位置に関係なく、ミッドソールのクッション性が早くヘタる傾向があります。
左右でバランスが崩れていたり、脚の長さに差がある場合は、シューズの減り方にも左右非対称な摩耗パターンが現れることも。

ローテーションで、シューズはもっと長持ちする。

ロングラン用、スピード練習用、トレイル用…。
トレーニングの目的や地形に合わせて複数のシューズを使い分けることで、1足あたりの消耗を抑えることができます。
これはただシューズの距離を分散させて負担を軽減するだけではなく、走り方のクセや摩耗パターンの違いにも気づきやすくなるメリットがあります。

同じモデルのシューズを複数足持って交互に使うだけでも、ミッドソールのクッション材が十分に回復する時間を与えることができます。
さらに、完全に乾かす時間も取れるので、素材の劣化も防げます。

お気に入りの一足と、もっと長く走るために。

ランニングシューズの寿命は、自分の手でしっかり延ばすことができます。たとえば、ランのあとには柔らかいブラシや布で、泥や砂をやさしく落としてあげましょう。
ゴシゴシ洗ったり、強い洗剤を使うのは、素材や接着部分が傷めてしまう原因になります。

走り終わったら、シューズの中までしっかり風を通して、湿気を残さないように。
湿気は、クッション材やアッパー素材の劣化を早める一因です。

靴を脱ぐときは靴ひもしっかり緩めて靴の形を崩さないようにしましょう。
直射日光や高温多湿を避けて、涼しくて風通しのいい場所に置いて保管するのが理想的です。

そして大事なことがもうひとつ:
洗濯機や乾燥機は絶対に使わないこと。
便利に見えて、実は接着剤の剥がれや素材の損傷につながるリスクが高いんです。

最後に、定期的にソールやミッドソールの摩耗状態をチェックしましょう。
見た目以上に性能が落ちていることもあるので、小さな変化にも気づける感覚を大事に。

シューズを長く使うこと。それは、自分にも地球にもいい選択。

お気に入りのランニングシューズとお別れするのは、いつだってちょっと寂しいもの。
でも、その別れが環境に与える影響をゼロにするのは、まだ簡単じゃないのが現実です。とはいえ、「裸足で走る」なんて、極端になる必要はありません。
サロモンをはじめ、多くのブランドがリサイクル素材の活用や、再資源化可能な構造の開発に力を注いでいます。「使い捨て」じゃないギア作りが、少しずつ現実のものになっています。

それに、もうランには使えなくなったシューズでも、街角までの散歩には十分役立つかもしれません。

良いシューズは、しっかりケアして長く使えば、お財布にもやさしく、環境への負担も減らせる。
それでも、性能の限界を迎えたときには、しっかり“引退”させてあげることも大切です。
それが、あなた自身のパフォーマンスとケガの予防につながります。