SALOMONは、2005年から20年以上にわたってフラッグシップシリーズ「S/LAB」シリーズを展開してきた。アスリートの声を聴き、SALOMONの持つテクノロジーを結集させて生み出されてきた「S/LAB」のプロダクトシリーズは、これまで数多くのトップアスリートやランナーたちの旅をサポートしてきた。

日本でもますます多くのランナーがトレイルランニングを楽しむようになった今、このシリーズを通して「S/LAB」のフィロソフィーをお届けする。

スピリット

コートニー・ドウォルター(米)、フランソワ・デンヌ(仏)といったサロモンアスリートたちは、「ハードロック100」(米)、「UTMB®︎」(フランス/イタリア/スイス)、「ウェスタンステイツ・エンデュランスラン」(米)といった世界でも有数のレースで、幾度となく優勝を飾ってきた。ある時にはコースレコードで、またある時には大会の最多優勝記録保持者としてトップランナーとして走り続けている。

彼らは「痛みの奥底(“ペイン・ケイヴ”)」(ドウォルター)を通り過ぎ、「仲間とプロセスを楽しみ」(デンヌ)ながら、レースやFKTをフィニッシュすると語っている。

フィニッシュ、あるいは偉業が成し遂げられるその瞬間は、ほんの一瞬だ。

レースでもFKTでも「その時」以外の時間のほうが圧倒的に長い。その長い旅の途上には、トレーニングや食事、睡眠、そして日々の生活にまつわる沢山の出来事がある。その長い時間でいかに「プロセスを楽しみ」続けられるか——トップアスリートは時にそんなスピリットで日々を過ごしている。

そんなアスリートたちのためにテクノロジーをどう活用することができるのか。

そう考えたSALOMONが、テクノロジーと情熱を結集させてスタートしたのが「S/LAB」プロジェクトだ。

聴くこと

1990年代から2000年代にかけて、SALOMONはアドベンチャーレースのスポンサーとなり、X-Adventureフットウェアラインの開発をいち早くスタートした。そして2005年、アドベンチャーレーサーと協働して「S/LAB」シリーズ最初のモデル「XA-Pro S/LAB」を作り上げた。

従来のフットウェアをレーシングモデルへと磨き上げたプロセスについて、当時のS/LABデザイナーは「ラリーカーから余分な素材をすべて削ぎ落とし、フォーミュラ1の美しさとシンプルさだけを残す、そんな作業に近いものだった」と語っている。

アスリートの「声」を聴きテクノロジーを最適化する「S/LAB」のプロジェクトでは、それぞれのアスリート向けの開発スケジュールが組まれた。そして、アスリート本人が「これだ」と納得してスタートラインに立てるようになるまでプロダクトの最適化を繰り返したという。

選手の姿勢や足形を3Dモデリングで測定し、その選手用のラスト(靴型)やアッパーを作り出す。「足病医」と呼ばれる専門家が、シーズンを通して変化する選手の足に合わせて複数のラストを用意することもあった。そして、選手のスタイルや目標、生理学的なニーズ、マインドセットを含めあらゆることを「S/LAB」チームが把握してサポートする。

このようなアプローチで、「XA-Pro S/LAB」を改良した「S/LAB XT Wings」が生み出された。そして「XT Wing」のプロトタイプを履いたアスリートが2007年の「UTMB®︎」で4位に入賞し、さらに、「レ・タンプリエ」(仏)でも別の当時のサロモンアスリートが1、2フィニッシュしている。

「S/LAB」プロジェクトはその初期から変わらぬ「聴く」アプローチで結果を残してきたのだ。

そして、2008年がやってきた。

「S/LAB」デザイナーと当時のサロモン・アスリートが「XT Wings」で見事この年の「UTMB®︎」で優勝を飾り、さらにその翌年には2連覇することになった。

さらに「S/LAB」チームは、「XT」シリーズの改良ではなく、それまでに存在しなかった全く新しいモデルを創る新たなプロジェクトをスタートし「S/LAB Sense」を生み出した。そのシューズでサロモンアスリートが米国人以外で初めて「ウェスタンステイツ」を制することになった。

「S/LAB」とそれを履くアスリートは、自然のなかで人間はこんなふうに駆けることができる——トレイルランニングのそんな新しい世界へと歩み続けてきたのだ。

夢と多様さ

それからも「S/LAB」チームは長年にわたってアスリートと協業を続けてきたが、2019年にもまた転機が訪れる。

当時新たに「S/LAB」に加わったプロダクトマネージャーは、その時点で8代目となって「Sense」よりもさらに軽く、さらに推進力があるシューズを作ることにした。デザインチーム、開発チームが加わり、通気性とホールド性を高める初の Matrix メッシュアッパーが採用された。

そうして作られたのが「S/LAB Sense 9」のプロトタイプで、当時のサロモン・アスリートがこのシューズで見事「Sierre Zinal」(スイス)のコースレコードを打ち立てた。そして、プロトタイプと同じオールホワイトで正式にこのシューズ「S/LAB Pulsar」が発売されることになった。

このシューズはまた、さまざまなコンディションで走りたいという「S/LAB」を履いたより広い層のランナーたちからの要望にも応え、深いラグを備えたソフトグラウンド(Soft Ground/SG)エディションとしてもバリエーションが広げられている。

アスリートのフィードバックやビジョンを取り入れつつ、より多くのランナーのニーズに応えるというアプローチによって、「S/LAB」はランナーたちの「夢」の実現をサポートしてきたのだ。

多様さ

ちなみに、「Sense」が「SG」へとそのバリエーションを広げる前から、「S/LAB」はランナー固有のスタイルに柔軟に対応してきた。そのアプローチは、「S/LAB」がスタートしてから変わらない原点のようなものだ。

2009年の段階で、ウルトラトレイルだけではなくショートやミドルを走る当時のサロモンアスリート達のためにプロトタイプを作っている。例えば、11世紀から始まり、約1000年の歴史があるとされている英国伝統の「フェル・ランニング」のアスリートたちのために、「S/LAB」は、「XT」シリーズをカスタマイズし、「S/LAB Fellcross」として提供したのだ。

そして、「S/LAB」チームと「Fellcross」を履いてぬかるんだ丘陵地帯のアップダウンを走り続けるアスリートたちはテストを繰り返しながら、2011年には「Fellcross」を正式に商品化した。

「S/LAB」は、地球上のサーフェスが全て違うこと、そしてそこを走るアスリートにはそれぞれ固有のスタイルがあることをプロジェクトの最初から明確に意識していた。そして、それに応じて柔軟にテクノロジーを活用してきた。

「S/LAB」によるアスリートの声を「聴く」ものづくりのDNAは、事の初めから一貫しているのだ。

物語と起源

「S/LAB」がそのプロダクトラインナップを多彩に広げてきたことについて、もう一つ象徴的なエピソードがある。フランソワ・デンヌがSALOMONに加わり、デザイナー、開発者、アスリートが集まって様々なことを話し合う場「アドバンス・ウィーク」が開催されたときのことだ。

あるアスリートは100マイルレースを3つのセクションに分けて考えていたという。そのために2回ピットストップするように立ち止まり、シューズを履き替えた。メンタルを立て直し、リフレッシュするための戦略的な方法だった。

一方でデンヌは、レースについて非常に詩的に語ったという。遠くまで続くうねった地形、夕暮れの景色、そして夜を越えてやってくる朝陽の魅力をゆっくりと話した。デンヌは、長い道のりを走り「世界」に没入するために、身に着けたギアも足元のシューズも忘れていたいのだと示唆したのだ。

そんなデンヌのためにデザイナーが生み出したのが「S/LAB Ultra」だった。「Sense」よりも厚いクッションとロッカーを備えたシューズだ。カラーは、レッドとパープルのグラデーションで彩られ、朝陽や夕暮れ、夜、そしてまた朝が来るという物語が表現された。テクノロジーとデンヌの語りが結びついたのだ。

当時のデザイナーは、「アドバンス・ウィーク」が最も自由な感覚に満ちた時間だったと語っている。競合の動きや市場からの圧力はそこに存在せず、アスリートと向き合い、必要なものすべてを作り出す自由がそこにはあるのだ。

起源

2020年、コロナ禍を経て人々が再び走り始めた。そのとき、「S/LAB」プロダクトラインマネージャーは、フットウェアをさらに新しくしようと考えた。

「Sense」から「Ultra」までそれぞれのシューズが、1人のアスリートが特定のレースで勝つことを目指して設計されてきた。

けれど一方では、変わりやすいコンディションに対応しながら長いレースを走り切るためのシューズが多くの人に必要とされるようになった。そこで、「S/LAB」チームは、ランナーたちがその一足でできるだけ長く山を走り続けるためのシューズの開発をスタートした。

「S/LAB」の「聴く」アプローチをアスリートに加えて一般のランナーにも展開し、ワークショップやフォーカスグループ、フィールドテストを重ね、答えを導き出した。プロテクション、耐久性、推進力を備え、アスリートだけではなくできる限り多くの人が自然のなかを走り続ける長い時間のなかでいかに「プロセスを楽しみ」続けられるのか——それを実現するシューズをリリースしたのだ。

そのシューズには、「S/LAB」のスピリット、テクノロジー、そしてアスリートに加えて多くの人が走ることを楽しむことができるようにするというSALOMONの考えかたの“起源”をそのまま表現した、「GENESIS」という名前がつけられた。

このシューズで、いま私たちはどんなふうに「喜び」を体現することができるだろうか。