ATHLETES

S/LABシリーズを纏い活躍するアスリートたちの言葉をお届けする本シリーズ、第2弾はサロモン・グローバルチームの近江竜之介をフィーチャーする。近江はどこからきて、どこへ向かうのか。グローバルチームでの日々の様子も含めてお届けする。

RYUNOSUKE OMI

愛宕山から世界へ

阪急電鉄嵐山線・嵐山駅をスタートして、京都一周トレイルの西山コースに入る。六丁峠まで緩やかに上り、そこから落合に降っていくと清滝川が見えてくる。川の入り口に、木彫りの地蔵がふたつ置かれている。その横を通って、金鈴峡のトレイルを北上していく。川の水面に木漏れ日が光る美しいルートだ。

約7kmほど進んだところにある猿渡橋と集落を抜けると、そこに鳥居がある。ここが登山口で、京都市右京区北西部・山城国と丹波国の境にある愛宕山の山頂へと続いている。表参道は約4.2kmで800m登るバーティカルコースがあって、山頂に愛宕神社がある。全国に無数にある愛宕神社の総本山だ。

近江竜之介は、幼少の頃から父親や、その友人たちに連れられて数え切れないくらいこの山を登ってきたという。

「5才くらいから、愛宕山に来ていたと思います。小さいときからこの山を走って上るようにしてたので、鍛えられたと思います」

愛宕山で登山やランニングを始め、数多くのレースを走るようになった——数年前までは年間30レースを走ることもあったという。そうやって走り続けてきた近江は、2025年からサロモン・グローバルチームに加わり、1年の半分を欧州で、もう半分を日本で過ごしながら「Golden Trail World Series」など各地のレースで活躍を続けている。

僕のつよさ

サロモン・グローバルチームのランニングカテゴリーには、ショートからミドル、ロングディスタンスまで色々な選手がいる。コートニー・ドウォルター(米)、フランソワ・デンヌ(仏)といったレジェンドに加え、「Next Gen」チームには近江より少し世代の若い選手たちもいる。各カテゴリーで突出した才能のあるランナー達ばかりだ。

そんなオールスターチームで走っている自分の強みはどんな点かと問われ、近江はこう答える。

「我慢強さだと思います。欧州の選手は下りが上手くて速い選手が多いです。下りでは彼らに圧倒的な差をつけられないこともあります。一方で、自分がライバルに差をつけられるのは上りです。下りで差がつけられなくても、リードをキープしながらまた次の上りで頑張る。自分のストロングポイントはそこだと思う。日本の選手は全般的に上りが強い印象がありますが、自分の場合は特にそうだと思っています」

近江は「今でも、京都に戻ったときは上りの練習をするときは愛宕山に来ることが多い」という。

「比叡山を走るのも良い練習になるのですが、ここは家からも近くてアクセスしやすいですね。色んな人に登ってみて欲しい山です」

愛宕山は、ランナーだけではなく、日帰りのハイカー達や、散歩がてら毎日登る地元の人も多い山だ。そんな「日常の山」の先に、世界がつながっている。近江竜之介は、その「世界」への上りを、我慢強く上り続けている。

世界のようす

「いつもの流れとしては、12月に2〜3週間ほどオフを取ります。翌年のメインレースや計画については、その期間にコーチと話しながら考え、年明け1月のグローバルチームのキャンプに参加して最終的に決めます」

「コーチはスペイン人で、スポーツサイエンスの専門家です。トレーニングやレースが終わるとすぐに分析してくれて、フィードバックをくれます。普段は英語でやりとりしていますね。ミーティングでは、大切な話を正確に理解したいので、今は通訳に入ってもらっています。良いところはとても褒めてくれるし、課題もどんどん指摘してくれます。はっきり言ってくれる。だからこそ、信頼感が大きいです」

サロモンは、コーチや栄養士など様々な専門家からなるチームでアスリートをサポートしている。そんな環境で日々トレーニングを続けてきた近江は落ち着いた様子でそう語る。けれど、「実は緊張することもありますね」と告白する。

毎年1月のキャンプにはほぼ全てのアスリートが集結する。ドウォルターやデンヌといった選手たちも訪れ、若手にも声をかけて色々な話をしてくれるという。

「彼らは僕が中学生や高校生だった頃に映像で見ていた選手達です。そんなレジェンドを目の前にすると、緊張してしまいますね。レースのスタートラインでも勿論緊張しますが、それは楽しくもあります。それとは違う種類の緊張です。でも、コートニー(ドウォルター)は、良い意味でオーラが無いんです。あれだけのレジェンドだけれど、気さくで話しやすいです」

8月のキャンプでは、自分と同じくらいか少し若い選手たちと3人部屋で過ごしたという。普段のヨーロッパ生活では自炊だが、キャンプでは専属のシェフが料理をしてくれる。各国の料理を作ってくれて、「お好み焼きや白ごはんが出たこともある」という。

朝から晩まで音楽をかけて過ごし、トレーニングをし、一緒に食事を取って、夜はトランプをして遊ぶ。皆でサッカーを楽しむこともあるという。

専門家とアスリートだけ、ではなく、先輩達がいて、仲間がいて、食事があり、楽しみがある。愛宕山を上り下りしていた学生時代とはもちろん異なるけれど、そこにもまた新しい「生活」があるのだ。

近江とサロモンはそういう「日常」を共にしながら、また次の山へ進んで行こうとしている。

これから

近江は、ここ最近は主に20kmから40kmくらいのレースを中心に走ってきた。そして、コーチと相談しながら過去1年は出場するレースの数を絞り込み、「5年後、10年後といった先を見据えて」いるという。

トレーニングは、ランに加えて、バイク、トラックでのインターバル、グラベル、ジムでの筋力トレーニングと、かなり計画的に取り組み、これからのレースについては「あえてショートディスタンスのレースを走ることが多かったですが、これからはマラソンディスタンスや少し長めのレースにもチャレンジしていきたいですね」と話す。

「コーチとぶつかることはあまりないですね。コーチとしょっちゅう電話で話す選手もいますが、自分の場合はトレーニング、レースのタイミングでコーチがとても細やかに声をかけてくれます」

そんな環境で、「こいつは凄い」と感じるのはどんな選手だろう。

「バルセロナ出身のスペイン人で、ジャン・トレイラという若手がいるのですが、彼は凄いですね。欧州の選手もまた幼い頃からランだけではなくスキーやハイキングなどを通して山に関わっている選手が多いです。そのなかでもジャンは山が好き、走るのが好きで、とにかく練習量がすごい。週25から27時間くらい走っていると思います。コーチも『あいつは練習メニューの1.5倍くらいをやる……』と言うし、姿が見えないと思ったら走りに行っている。キャンプでの熱量もすごいです。自分にも刺激になりますね」

近江は、そんなふうに感じながら、これからの日々を走り続けていく。

「2026年の『Golden Trail World Series』は、アジアでのレースが合計3戦——日本の「MYOKO TRAIL」、中国の「JINSHANLING GREAT WALL」、そして韓国の「MUJU TRAIL」——ラインナップされ、アジア人の自分にとっては有利だと感じて挑戦しています」

「これからは、トレイルランニング世界選手権もあるし、2027年はUTMB OCCにも出たいですね。世界には色々な選手がいて、色々なレースがある。自分もこれから沢山のレースに出て良い結果も出したい。ぜひ応援してくださいね」