ランニングを、冒険に。‐初心者のためのファーストステップ‐

ランニングとの出会い — キャスケット・ヴェルトの体験談

誰もが最初は初心者でした。偉大なチャンピオンたちも、最初の一歩からすべてが始まったのです。
フランスのトップ・ウルトラトレイルランナーの一人として知られるアレクサンドル・ブシェ(通称「キャスケット・ヴェルト(緑のキャップ)」)も例外ではありません。彼もまた、すべてを一から学び、徐々に成長してきました。そんな彼が、自身のランニングの始まりと、どのようにして上達していったのかを語ってくれます。

春の訪れとともに、ついにランニングという冒険を始めたくなる衝動が湧いてきます。
ランニングほどシンプルなスポーツはありません。ただ、足を前に出してを繰り返すだけ。でも、そのシンプルさの中に“楽しさ”を見つけるのはまた別の話。
いくつかの基本ルールに従うことも大切ですが、もっとも大事なのは「ルールに縛られすぎないこと」です。

なぜ走るのか?

これは、まず最初に、そして最も大切にすべき問いです。キャスケット・ヴェルトも強調しています。「周りがやっているから」ではなく、自分自身の“正しい理由”を見つけること。そうでなければ、続けることは難しくなります。

「ここ数年で、ランニングはずっと身近なものになりました。偉大なチャンピオンたちの影響や、特にSNSを通じたトレイルランニング・コミュニティの盛り上がりも大きいです。今では、山で育っていなくても、標高4,000メートル級の山々に囲まれていなくても、誰でもランナーになれるんだって気づけるようになりました。ランニングシューズさえあれば、どこにいても走り出せます。でも、それだけじゃ足りないんです。最初から“走りたい”という気持ちがなければ、ただ苦しいだけになってしまうから。」

体を動かしたい、痩せたい、ストレスを減らしたい、新しい景色を見つけたい。
どんな理由であれ、“楽しい”と感じられることが何より大事です。

ランニングを始めるための基本とは?

「アドバイスなんて気にしない。自分を信じて、とにかく始めてみよう!」
キャスケット・ヴェルトは、そうシンプルに言い切ります。

ランニングの魅力は、いつでも、どこでも始められること。特別な場所も道具も必要ありません。靴ひもを結んで外に出るだけ。最初はあれこれ考えすぎず、とりあえず走ってみる。そして徐々に、自分に合ったスタイルを見つけていけばいいのです。

「何よりも大切なのは、自分の体の声に耳を傾けること。数字にとらわれないことです。タイムや距離、時計の表示なんて気にしないで。大事なのは“自分がどう感じているか”。走っているときの自分と、家でゴロゴロしていた自分を比べてみてください。きっと、走ることの楽しさが分かってくるはずです。」

最初の何回かは、走る時間も距離もバラバラでOK。
でも、その中で少しずつ自分の生活に“走る”という習慣を組み込んで、体に馴染ませていくことが大切です。

初心者にとって必要なギアとは?

・履き心地のよいランニングシューズ

ランニングが他のスポーツと大きく違うのは、特別な道具をたくさん必要としない点です。始めるときに必要なのは、ただ一つ。「自分の足に合ったランニングシューズ」です。

「ランニングを好きになるには、まずは“快適さ”が欠かせません。足にフィットする、ちゃんと自分に合ったシューズを選びましょう。エリートランナーが履いているからとか、近所の誰かが勧めてきたから、という理由で選ばないことです。」

シューズ選びは、走る場所や季節にも大きく左右されます。
ロードを走るのか? トレイルなのか? 滑りやすい道か? 冬の寒さに備える必要があるか? こうした条件によって、選ぶべきシューズのタイプも変わってきます。

・適切なウェアの選び方

快適なランを支えるために、吸汗速乾性に優れたTシャツやショートパンツ、または通気性の高いランニングタイツを着用しましょう。コットン素材は汗を吸収して乾きにくいため避けるのがベターです。

天候が読めない山岳エリアや長距離のトレイルでは、軽量で防風・防水性を備えたシェルジャケットがあると安心です。気象の変化にも柔軟に対応できる装備が、あなたのパフォーマンスを支えます。

・ランニングバックパック&ベルト

ランニングバックパックやベルトは、単なる装備以上の存在です。ハイドレーション、補給食、鍵、スマートフォン、カード類など、走りながら必要なものをすぐ手の届く場所に確保できるスマートな選択肢です。
「たとえ20分のランでも、僕はこのランニングバックパックなしでは出かけません。」

身体を整えるランニングの恩恵

ランニングは、全身にアプローチできるバランスのとれたアクティビティです。続けていくうちに、身体の変化を実感できるでしょう。定期的に走る習慣がつけば、ほんの数週間で「身体が軽くなった」「引き締まってきた」と感じ始めます。

「バスに駆け込んでも息が上がらない。それだけで、体が整ってきたことを実感できてうれしいんです。」

このように、すぐに感じられる変化だけでなく、ランニングは下記のような長期的な健康効果ももたらします。

・心肺機能の向上

・筋力の強化

・脂肪燃焼・体重コントロール

・持久力と肺活量の向上

・骨や関節の強化

・代謝の正常化

心を整えるランニングの力

「健全な身体に、健全な心が宿る」―この言葉は実際の体験に裏打ちされたものです。
身体が整うと、心も自然と軽やかになります。ランニングは、単なる運動ではなく、心のストレスを解き放つための手段であり、自分と向き合う静かな時間でもあります。

走ることで、私たちは心の平穏を取り戻し、ストレスや不安を軽減し、日々の生活の中で自信を育てていくことができます。
ペースを守ること、限界に挑戦すること、苦しいときにも前に進む意志を持つこと─ランニングを通じて、私たちは自分自身の芯を鍛えるのです。

「自分のために、自分のリズムで、自分らしく走る──そのランは、きっと人生を前向きに変えてくれる。
ただし、周囲の声や他人のスタイルにとらわれすぎないように。自分の道を見失ってしまえば、ランニングの持つポジティブな力さえも、比較や焦りに変わってしまいます。」とアレクサンドル・ブシェは言います。

走り始めるのに計画は必要?

最初に大切なのは、楽しむこと。トレーニングプランを立てる必要はありません。「20kmに挑戦したい」「次は50kmを」「いつかは100マイル」「入賞を目指したい」─そんな目標が見えてきたときにプランを立てれば大丈夫です。

アレクサンドル・ブシェは「走り続けて10年になるけど、トレーニングプランを組んだことは一度もない。僕は“練習”じゃなく、“走ることを楽しむ”んだ。」と言っています。つまり、最初に立てるべき”プラン”があるとすれば、どうすれば自分にとってランニングが楽しいものになるかを見つけること。インスピレーションの赴くままに、自分だけのスタイルを築いていきましょう。一歩ずつ、少しずつ距離を伸ばしながら、”楽しい”を軸に進めば、それが一番の成長への近道です。ウォーミングアップなどと難しく考えず、走り始めた最初の数キロこそが、あなたの心と体を目覚めさせる時間になります。

ランニングの前には何を食べるべき?

最初のうちは、食事を過度に気にしすぎる必要はありません。カロリーを極端に制限するのも、逆に摂りすぎるのも避けましょう。「何を食べればいいのか」と悩みすぎるよりも、直感とバランスを大切にしてください。表彰台を目指すようなレベルでない限り、ランニング専用の特別な食事プランは必要ありません。

基本はシンプルです。
– ランの2時間前にどっしりした食事は避ける
– 長距離に挑むのに、レタス数枚では足りない

そんな常識的な感覚で十分です。

ただし、100マイルなど長距離に挑む場合は、エネルギー消費にも気を配る必要があります。
使った分のカロリーはしっかり補給しないと、パフォーマンス低下や深刻な疲労に繋がります。

キャスケット・ヴェルト流の走力を伸ばすためのガイド

ランニングで成長したいなら、複雑に考えすぎないこと。鍵はたった3つ。継続、情熱、そして目標となるレースです。

  1. 継続すること
    「大事なのは強度じゃない。とにかく定期的に走ること。たとえ雨が降っていても、天気がイマイチでも、外に出ること。継続は、何よりも力になると思ってる。」
  2. 走りたいという気持ち
    「誰かに言われたからじゃなくて、自分が走りたいと思える理由が必要。楽しさでも、心の整理でも、何でもいい。ただ、それが“自分の本音”であることが大事なんだ。」
  3. 目標となるレースを持つこと
    「走り始めると、次第にレースが原動力になってくる。何かに向かっているという感覚があれば、自分に負けそうなときでも踏ん張れる。進み続けるための火を灯し続けてくれるんだ。」

日常とランニングの両立、どうしてる?

ランニングは、気づけば生活の中心になってくる。だからこそ、仕事、家族、友達との時間とどうバランスを取るかが大切です。

キャスケット・ヴェルトのアドバイス:
トレイルランを日常に組み込んでしまおう。たとえ少し恥ずかしくても、それでいい。

「よく友達には“遅れて行くよ、しかもランニングの恰好で!”って伝えてた。ショートパンツにトレイルシューズで登場するのが普通になってたね。最初はびっくりされたけど、すぐ慣れてくれたよ!」

走ること=移動手段にしてしまう
「パリの移動は全部ランに切り替えたから、メトロの定期券も解約したんだ。通勤も、ちょっとした外出も、全部ランニングにすればいい。家にいるスキマ時間や、昼休みだって走るチャンスになる。」

すべての移動を、すべての予定を、“走るきっかけ”に変えてみよう。

もっとストイックに、でももっと自由に。
楽しむことと続けること。
それが、キャスケット・ヴェルトの流儀。